しま子の読書会ブログ

読書会をするブログです。たまに私が見た本や映画の紹介もしたいです。

第二十八回「闇の左手」 アーシュラ・K・ル・グィン:著 小尾芙佐:訳(ハヤカワ文庫)

 くっ!まったく読み進められない!

 

 SFでは珍しく大苦戦しました。

 原因としては世界観が確立され過ぎていることです。

 惑星ゲセンを舞台とした物語なのですが、そのゲセンの街の名前も多彩です。

ル・グィンのサイトを見ながら懸命に主人公たちの足取りを追いました)

 また、ゲセンの人々の価値観を表す言葉が初めて出会う言葉ばかり。

 

「ケメル」=両性具有であるゲセン人の発情期を表す言葉

「エクーメン」=複数の惑星連合

「シフグレソル」=面目を施すか失うかといった形での抗争

そして「ヌスス」=我関せず

 

 これらの言葉を飲み込みながら読んでいくとなかなか前に進まず苦労し続けました。

 そして苦労したこの気持ちを共有しに読書会へ向かうのでした。

 

シュガさん「あ~面白かった! 読みやすかったね!」

 

私「ヌスス・・・(´・ω・`)」

 

 

「闇の左手」はゲセンと呼ばれる惑星にやってきたエクーメンの使節ゲンリー・アイを中心とした物語です。ゲンリー・アイはゲセンとの外交関係を開くために、エクーメンからやってきました。しかしなかなか交渉がうまくいかず、いつのまにかゲセン内の国同士の陰謀に巻き込まれていきます。

 

シュガさん「やっぱりゲセンの特徴と言ったら性的な差異がないところだよね」

 

 ゲセンには男性と女性はありません。すべての人が両性存在です。ケメルという発情期にだけランダムで人間のいう男性と女性の役割を持ちますが、子供が生まれれば再び中性的な立場に戻ります。

 

シュガさん「私はやっぱりゲセンの世界の方が平等だと思うんだよね。妊娠とかもどうしても女性の負担の方が大きくなっている現状だし。ゲセン内の国が牽制しあっているときに出てくる『王が妊娠した』というセンテンスもなんか良いなって感じるよね」

 

姉「まあ性差がないはないで色々な問題を抱えているけれども、性の行為自体がタブー化されていないのはいいよね。ケメルという発情期があることを皆が素直に受け取り、その時は仕事などをストップしてその発情期に身を任せる。それを社会全体が認めているから生きやすいなとは思う」

 

私「ゲセンの人たちはケメルを認めているからこそ、動けない人たちがいるのを前提に共同体を作ってますよね。そこで父の役割も母の役割もこなしながらみんなで子育てをしているのは素敵ですよね」

 

 性差がないことで起こる問題もきっとたくさんあります。実際にこの物語ではその問題に主人公のゲンリー・アイは巻き込まれていきます。しかし作者のル・グィンは「夜の言葉」というエッセイの中でこういいます。

 

 現在の中心的な問題は搾取です――女性に対する搾取、弱者に対する搾取、そして地球に対する搾取。この忌むべき状況の源は疎外であり、陰と陽の分離です。均衡と統合の探求ではなく、支配への闘争が繰り広げられている。分裂が声高に叫ばれ、相互依存は拒絶される。現在のわれわれをむしばんでいる二元的価値観――強者/弱者、支配者/被支配者、所有者/被所有者、行使者/被行使者といった二元性――これが果てして、わたしにとって、現在から見てはるかに健全で堅固な、より期待しうる様態と思えるもの、すなわち、統合と無欠の状態へと道を譲ることはあるでしょうか。

 

 ル・グィンが仮想した性差のない世界では、少なくともいま私たちが住む地球よりも統合の道へと進んでいると考えられます。

 

姉「あとはやっぱり、ゲセンには戦争がないってのがいいよね」

 

私「なんで性差がないと戦争がないのでしょうか?」

 

姉「戦争ってやっぱり男性的なイメージだよね。さっきシュガさんが言ってたけど『王が妊娠した』ってすごい戦争と対極なセンテンスじゃない? 妊娠やケメルって個人の時間の停滞だと思うんだよね。時間が他者に移行するというか。そういう時間をみんなが平等に持っていると戦争は起こりにくいんじゃないかな」

 

シュガさん「性差はもちろんだけどシフグレソルって考えも影響してるんじゃない?」

 

 シフグレソルについて上記にあげた「夜の言葉」でル・グィンはこう語ります。

 

 シフグレソルとは、肉体的な暴力をふるうことなく相手に差をつけること、つまり面目を施すか失うかといった形での高層であり、儀式化され、様式化され、コントロールされた抗争です。シフグレソルが破綻を来した場合には肉体的な暴力行為が起こることもありますが、この場合も、限られた個人的な行為に留まり、大衆暴動に発展することはありません。

(中略)

国王や議会が生まれたとはいえ、権限を執行するに際しては、力よりも、シフグレソルや陰謀が用いられることがはるかに多く、同時に、この王や議会の権限は、神に授けられた権利やら愛国者の義務やらといった父権社会的理念に訴えることなしに、慣習として受け入れられました。秩序の媒体としては、軍隊や警察よりも儀式やパレードのほうがはるかに効果的です。

 

 力の代わりになる抗争手段を持っていることが戦争の抑止に繋がっているのです。

 

私「けどやっぱりル・グィンの作る仮想世界がしっかりしすぎていて、やはり読むのが辛かったです」

 

シュガさん「それでもこの仮想世界は現在生きている私たちの世界との対比が上手いこといってるから面白く読めるよね。ゲンリー・アイが私たちの世界代表の人間として異世界の人と分かり合おうとしていくストーリーが楽しかったかな」

 

姉「ゲンリー・アイの窓口になるエストラーベンとの旅路も楽しくよめたよね。お互いに苦労しながら分かり合っていくんだけど、最後のシーンで読者もゲンリー・アイもエストラーベンの考えに置いてかれる感じが……」

 

私「でも読むの辛かった……」

 

シュガさん・姉「面白かったね~」

 

私「ヌスス!!!」

 

 最近のマイブームは自分の嫌なことを言われたらヌススということです。(絶対使い方違う)

 

 

 

闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF (252))

闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF (252))