第二十六回 「火星年代記〔新版〕」 レイ・ブラッドベリ:著 小笠原 豊樹:訳 (ハヤカワ文庫)
今回の参加者:私、姉、シュガさん
SFは読書会を平和にします。
シュガさん「全体的にすごい面白かった!」
姉「とても面白かった!」
私「楽しかった!」
いつも殺伐としたスタートを迎える読書会があら不思議、SFになるとたちまちみんなの意見が一致します!
平和な読書会のためにはSFおすすめです!(当社比)
「火星年代記」はタイトルの通り、火星と火星人と地球人の出来事や事件に関して書かれた短編集です。
それぞれの短編集が魅力的で面白いのですが、年代記になっているので、最初に分からなかった内容が、後々の短編で明らかになっていく仕掛けも楽しめる要因です。
シュガさん「特に『地球の人々』が面白い! ゲラゲラ笑ってしまった!」
姉「わかるわかる! 精神異常者として扱われる諧謔性がよかったよね」
私「火星人がテレパシーを使えて、相手に自分の見てるものを見せることが出来る設定が良いですよね」
短編「地球の人々」では火星にやって来た地球の探検隊の隊長が精神異常者の火星人として扱われます。心理学者の火星人クスクスクス氏は、その精神異常者から見させられる、あまりにも現実的な幻覚に大盛り上がり。(本当は全部実在するのですが……)
「おめでとうを言わせてくれませんか。あなたは精神病の天才だ!(中略)テレパシーによって、あなたの精神病的イメージを他人の心に投影し、しかもその幻覚が感覚的に弱まることがないというのは、ほとんど不可能です。」
あまりの精神異常に殺した方が幸せだと考えたクスクスクス氏は、地球人を撃ち殺したあとにこんなことを言います。
「これはすごい! 時間的・空間的持続性をもつ幻覚だ!」
精神異常者を殺したのに未だに見える隊員やロケットを見て、「自分も精神異常者になってしまった!」と思って自分を殺してしまうのです。
私「確かに私たちの周りに急に『火星人です!』っていう人がでたら精神異常者と思ってしまいますよね」
シュガさん「ロケットとか証拠品をみても火星人とは信じられないかもね(笑)筒井康隆的なユーモアに感じられてとっても面白かった」
年代は進んでいき、火星人は人間の水疱瘡にかかりほとんど全滅してしまいました。そして本格的に地球人が火星に進出してくるのです。
姉「私は『第二のアッシャー邸』が好きだったかなぁ。私がミステリーが好きだからオマージュみたいで面白かった」
「第二のアッシャー邸」は火星でポーの小説に出てきたアッシャー邸を建てる話です。
地球では空想防止協会や道徳風潮局という組織ができ、文学や美術など空想を飛躍させるものを焚書していきました。もちろんポーの小説も全てです。
そんななか、登場人物の地球人、スタンダール氏は地球ではすぐ壊されてしまうだろう、ポーのアッシャー邸を再現したものを火星に建てます。
そこに地球から空想防止協会や道徳風潮局の人々が取り締まりにくるのですが……。
姉「現実以外の物を貶める人たちを、想像の力で一網打尽にしていくストーリーが良いよね」
私「現在進行形で上手くいってる人や、支配層にとては想像力って邪魔でしかないですものね。ただ想像の力や現実を逃避する能力も必要になることも多いはずです」
シュガさん「まさにこの読書会もそうだしね」
私「ハハハ……」
そして年代が経つにつれ、火星に移住する人がどんどん増えます。それと同時に地球は核戦争などで滅亡に近づいていくのです。そんな中地球から火星にメッセージが届きます。
帰リキタレ。帰リキタレ。帰リキタレ。
そして火星に住んでいた地球人は地球に帰って行きます。そこに私は疑問を感じるのです。
私「帰ります? 宇宙に行ったことがないからわからないんですけど」
シュガさん「私の地元は今住んでるところから離れてるけど、帰るかもしれない。火星に向かった人間は、あくまでも故郷があるから火星に向かったんだよね。自分の故郷が危機になったときに戻ることが可能なら絶対に戻るよね」
私「うーん。それでも私は命の方が重要なような……」
シュガさん「故郷を離れてみないと分からない感覚かもね」
私「私なんかずっと同じ場所に住んでますしね」
そして最後の短編「百万年ピクニック」。すべてが終わって、最後の一行。今までの物語を読んできて、最後にこんなに気持ちの良い文章あるでしょうか!ってくらいの一行です。
とっても良い読書体験と読書会でした!
毎回こんな平和だといいです!