しま子の読書会ブログ

読書会をするブログです。たまに私が見た本や映画の紹介もしたいです。

第二十一回 「バイバイ、エンジェル」 笠井 潔 著 (創元推理文庫)

今回の参加者:私、姉、シュガさん

 

 

 今回の課題図書は姉から出されたものでした。姉はすでに読み終わっています。

 

 文庫裏のあらすじを読むと

 

ヴィクトル・ユゴー街のアパルトマンの広間で、血の池の中央に外出用の服を着け、うつぶせに横たわっていた女の死体には、あるべき場所に首がなかった! こうして幕を開けたラルース家を巡る連続殺人事件。』

 

 という一文から始まります。面白そう! と思ってページをめくろうとしたら

 

 姉「首がない理由が分かったら100円上げるよ」

 

 姉のこの一言により私は「バイバイ、エンジェル」に真剣に取り組むことになってしまったのです。

 たかが100円。されど100円。私はコピー機で目次にある街の略図を印刷し(10円)、ノート(100円)に人物相関図を書き、初めてミステリーに本気で挑みました。

 今までミステリーを読む時は何となく頭で考えているだけだったのですが、今回は人物のアリバイを全て図解し、この命題を解き明かそうとしたのです!

 

 297ページまでに答えを導きだせとのお達しであったので、私は何とか自分で答えを導き出して外出中の姉にLineを送りました。

 

 

 

姉「×」

 

 

 

 私の長文の推理をまさかの絵文字で返す姉。優しさはないのかしら。

 まるで今回の主人公ナディアのような心境でした…。

 

 

 

 

〈ここからネタバレになるので、これから読む人は気をつけてください!〉

 

 

 

 

 

 

 主人公はフランスに住む警視モガールの娘であるナディア。今回の事件に探偵小説が好きな彼女は意気揚々と挑みます。そんな彼女と事件に挑むのは謎の日本人である矢吹駆。彼は彼女に巻き込まれる形でいやいやながらも事件に臨みます。

 

 しかし矢吹駆は現象学を駆使した考え方であっという間に事件の全貌を明らかにしてしまいます。しかし事件の真相を明かすのは全ての現象が終わってからだとナディアに言うのです。

 ナディアはそんな態度の矢吹駆にやきもきしながらも、自分自身で真実にたどり着きます!……そう私と同じように……!

 中盤ナディアが自分の推理を披露するシーンがあるのですが、まあ胸が痛い痛い。全然違う答えをみんなの前で自信満々に披露する姿はさっき姉にLineをしたどっかの誰かさんとダブるのです……

 

 そして最後には全ての謎が解き明かされます。100円はもらえませんでしたが私は満足して読書会へ向かうと

 

シュガさん「最後がなぁ……」

 

でました。いつものパターンです。私が面白いと感じる本、シュガさんはイマイチ説です。

 

私「なにが納得いかなかったんですか?」

 

シュガさん「最後に黒幕が明かされて、犯行の理由が語られるじゃない? あれが今までの話から浮いている感じがするんだよね」

 

 最後に犯人の人間と矢吹駆の勝負が始まります。それは犯人の思想と矢吹駆の思想のぶつかり合いです。

 「バイバイ、エンジェル」の面白さは、ただのミステリー小説ではなく、そこに大きな思想があります。矢吹駆の現象学的思想と犯人の終末論的な思想が互いに交わされるシーンが確かに面白いのですが、シュガさんからいわせると浮いてるのです。

 

 「バイバイ、エンジェル」に続く二作目の作品「サマーアポカリプス」の奥泉光の解説にもそのようなことが書かれています。

 

「処女作『バイバイ、エンジェル』には著者の苦闘と失敗の痕跡が見てとれる。敢えてあげつらうならば、思想的対立をなすべき探偵と犯人の対決が全体の筋から浮かび上がってしまった欠点は否みようがない」

 

私「最初に読んだ時はのめり込み過ぎて違和感がなかったのですが、たしかに犯人の思想が明らかになったのは最後の最後でしたものね」

 

シュガさん「え。てか二作目も読んでたの」

 

私「おもしろすぎて(`・ω・´) 二作目の方が評判良かったし!」

 

姉「内容もう忘れたから語れない」

 

私「(´・ω・`)」

 

姉「話戻すけど、私は思想犯の方が感情的に人を殺すより納得できるから、すとんと読めたけどね」

 

 犯人は自分の崇高な思想のために、多くが犠牲になるのは仕方がないと説きます。

 誰でも一度は考えたことがあるんじゃないでしょうか? 未来が良くなるためには何か犠牲が必要ではないかと。しかし矢吹駆は犯人の考えを喝破します。

 

「君はただ、普通に生きられない自分を持てあました果てに、真理の名を借りて、普通以下、人間以下の自分を正当化し始めただけだ。(中略)ほんとうに勇気があるなら認めてしまうんだ。君が、いや僕たちが彼ら以下であるという事実を。(中略)豚以下、虫けら以下だからこそ、どうしようもなく観念で自分を正当化してしまう。それを認めてしまうんだ。」

 

姉「犯人かわいそうになってくるよね。自分を保つための思想をこういう風に言われたら」

 

シュガさん「確かに犯人の過去は普通の人とあわないものだったし、思想も一見間違ってないように聞こえるんだけどね。観念を持つこと自体が悪であるという考え方なのかな」

 

私「観念の原因が『私』であることが良くないのですかね。矢吹駆は無と認めることが大事だというけども……」

 

シュガさん「それに「無」を目指す矢吹駆自身がこのように犯罪に関わっていることにもどことなく違和感があるよね……」

 

私「そんな違和感を解消するためにも、ぜひ二作目のサマーアポカリプスを!」

 

シュガさん「もういいかな」

 

私「(´・ω・`)」

 

 二作目もとても面白かったのでみなさんもぜひ!



バイバイ、エンジェル (創元推理文庫)

バイバイ、エンジェル (創元推理文庫)