読書記録③:「進化の法則は北極のサメが知っていた」 渡辺祐基 著
学校で習った理科の授業は点数を取るためだけに覚えてました。
とにかく暗記、暗記、暗記!
ああ、なんてもったいないことをしていたんでしょう! こんなに私たちの身体に関わっていて、面白いことばかりだなんて!
「進化の法則は北極のサメが知っていた」では、物理や生物が身についていない私にでも、理解しやすく描かれています。
それなのに何か世界を知ったような錯覚に陥るくらいの刺激を、本書は与えてくれるのです。
1ページ目を読むだけで、そんな感動を与えてくれます。
そこに書かれているのは鼻水についてです。人間はなぜ鼻水が出るか知っていますか? 私は「こんな単純なことだったんだ!」と驚き、そして深く納得しました!(そしてすぐにその知識を家族に披露してしまいました!)
もう鼻水の不思議を知っただけで興奮がおさえられません!
そんな鼻水の疑問を解消しながら、生物がもつ体温というものを軸に、すべての生物がもつ仕組みを解き明かそうとする試みがはじまります。
鼻水だけであんだけ興奮していたのに、これから自分はどうなってしまうのかというドキドキとワクワクがとまりません!
その大きな命題を解き明かすために、著者のフィールドワークを交えながら、特徴的な生物の仕組みをとても分かりやすく解説してくれます。
約400年の寿命と言われる「ニシオンデンザメ」。なぜ400年という寿命が可能なのでしょうか?
南極に住む「アデリーペンギン」。かれらはアザラシやクジラと違って皮脂のような保温効果のあるものがないのに、どうして南極で生きられるのでしょうか。
さまざまな変温動物や恒温動物のフィールドワークを行いながら、それらの疑問に体温という鍵を使って解き明かしていく文章は読んでいてとてもワクワクします。
そしてそれらの個別の謎解きから一つの大きな生物の仕組みを解き明かしていきます。
「生き方そのものを決めるのは、たった二つの要素、つまり体の大きさと体温なのである。P257」
うそ~!
って思います。だってあんだけ多様性がある生き物を「体の大きさと体温」で説明できるはずがありません!
でも著者と一緒にフィールドワークを体験しながら、分かりやすい解説を見て行くと、その結論の面白さにドキドキしながら受け止めることができます!
とくに私が面白かったのが、寿命が短い理由への答えです。
ずっと疑問でした。吉野弘の「I was born」を読んだ頃から、なんで蜻蛉のように短い生があるんだろうと。
「活発に動いてたくさん食べ、速く成長し早く繁殖して死んでいく。そうした生物は代替わりが速いので、遺伝子の変異が蓄積されるペースが速く、したがって新たな種の生まれる確率が高く多様化が進みやすい。P262」
生物としての目標は子孫を残すことです。
自分の遺伝子を残すための方法として、繁殖のスパンを短くして、多様化することで子孫を残していく。
個々に見ると、「なんでそんなに早く死んじゃうの」という感情だけでしたが、大きく俯瞰して見ると、生き物としてリスクヘッジされていてなんて賢いんだろうと感心してしまいました。
そして著者は繰り返し単純な答えはないと言います。
「一見してそれとわかるパターンなどない。それに合理的な説明といったって、「AだからB」という直接的な説明など不可能な場合がほとんどである。でも、だからこそ面白いのである。自然という巨大な複雑系に正面から向き合い、正確さとシンプルさのバランスのとれた自説を捻り出そうと終わりのない努力をすること。それこそが生態学の魅力である。P341」
著者が必死に行ったフィールドワークと論理的な文章から、読者の私は非常にシンプルに読むことができますが、そこには想像もできない複雑さとの葛藤があるのでしょう。
「生態学はこの意味において、人生に似ているとも思う。P341」
だからこそ分からないことに飛びついて知ろうとすることが楽しいのだなと改めて感じた楽しい読書体験でした。