しま子の読書会ブログ

読書会をするブログです。たまに私が見た本や映画の紹介もしたいです。

第十六回 「増補新訂版 アンネの日記」 A・フランク 著 深町 眞理子 訳(文春文庫)

 年末に毎回行われるのが「読まなきゃいけない気がするけど読む気力が起こらない本選手権」です。

 

 三人が三つの紙に選手権の代表にふさわしい本を書きます。

 

 それをビニール袋にいれて取り出し、その本を読むわけです。

 

 過去には「細雪」や「白鯨」といった本に主に私は苦しめられ続けてきました。

 

 今回私が書いた本のタイトルは「エミール/ルソー」「すばらしい新世界/ハクスリー」「死霊/埴谷雄高」です。「すばらしい新世界」以外出たら死にます。私はずっと「すばらしい新世界でろ!」と祈り続けました。

 

 そしてシュガさんが引いた神の右手に開かれたのは……

 

シュガさん「あ、わたしのだ」

 

 

アンネの日記

 

 

うおぅふ。こんな声がでました。アンネの日記か~そうか~。……。

 

 

 なんとか気持ちを切り替えることにし、一ヶ月の猶予がありましたので読書会十分前に読破しました。

 

 

 

 「アンネの日記」はすでにあらすじも話さなくても誰もが知っているものでしょうが、本裏のあらすじを乗せておきます。

 

 『自分用に書いた日記と、公表を期して清書した日記―アンネの日記」が二種類存在したことはあまりにも有名だ。本書はその二つを編集した〈完全版〉に、さらに新たに発見された日記を加えた〈増補新訂版〉。ナチ占領下の異常な環境の中で、13歳から15歳という思春期を過ごした少女の夢と悩みが、より瑞々しくよみがえる。』

 

 ちょっと待って。あまりにも有名って言われたけどまったく知らない。

 

 実はアンネの日記は二種類存在していたのだそうです。

 

 彼女は自分自身に当てた手紙という形で日記を書いていたのですが、戦時下のラジオで「戦争が終わったら、ドイツ占領下におけるオランダ国民の苦しみを記録した手記、あるいは手紙などを集めて公開したいと考えている」ということを言った時に、それまでの日記を清書し、二つの日記がうまれたそうです。

 そしてこの二つの日記をもとに編集された本がこの本であるとのことです。

 

 という話なのですが、私たちはアンネが書いた日記と解釈して話を進めることにしました。

 

 この本はただの日記と大きく違うところがあります。それは「キティ」という架空の他者に呼びかける形を取っていることです。日記に他者を介在させることによって、読みやすい文章になっていることもありますが、シュガさんはそれだけではないと言います。

 

シュガさん「キティに反対意見を持たせたり、自己批判をすることでアンネの自己分析にもなってるのよね。それに人物描写が素晴らしい。なんか太宰が中学生の時の文章のようで面白いんだよね」

 

 アンネはユダヤ人としてドイツを追われ、一家でオランダの隠れ家に住むことになります。その隠れ家では、ファン・ダーン一家と住むことになるのですが、自分の家族はもちろん、その家族についての描写も細かくされています。

 

 アンネの最後を知っていてこう言うのは申し訳ないのですが、二人の家族が同じ家に住み、外に出られない密室状態の時、思春期の女の子はどう生き抜いていくのか。そのような心理的な読み物としての面白さがあります。

 

 シュガさんはその場の空気を見て話すアンネの当意即妙な言葉遣いや、細かい分析による結果の面白い洞察に「アンネの日記」の楽しさ感じています。

 

 しかしお姉ちゃんの意見は真逆です。

 

姉「アンネは想像力が豊かすぎて、むしろ洞察力はないと思う。あたまでっかちで自己意識の高いアンネの幼さが少しいやだったかな」

 

 その例としてあげているのがアンネが父へ送った手紙です。

 

 ファン・ダーン家の息子、ペーターと良い仲になったアンネは、父親にもそのことを認めてほしいと願いますが、通常とは違う環境での恋愛に父親は「あまり会わないように」と忠告します。

 それに対してのアンネは父に手紙を渡します。

 

「おとうさん、おとうさんはわたしから何か一言あってしかるべきだ、そう思っているでしょうから、それを言ってさしあげます。おとうさんはわたしに失望していますね。わたしがもっと慎重にふるまうと期待していたからです。それにたぶん、わたしが普通の十四歳の少女らしく行動することも望んでいるのでしょう。でも、それはまちがっています!

(中略)

いまのわたしは、完全に自分ひとりで生きてゆける段階に達しました。もうあかあさんの助けはいりません。いえ、そのかぎりでは、ほかの誰の助けも不必要です。とはいえ一朝一夕にここまできたわけではありません。つらく、悲しい葛藤を重ね、たくさんの涙を流したすえに、ようやく自立した境地に達したのです。

(中略)

いまこそわたしは自分の思いどおりの道を進みたい。自分の正しいと考える道を進みたい。わたしをただの十四歳の少女だと考えないでください。これまで苦しみがわたしをもっとおとなにしてくれました。これからは、いままでしてきたことを後悔することなく、自分でできると思うことをしてゆくつもりです。」

 

 アンネは辛い経験をしているのは間違いない。密室の中でこれほど自分を保ち、身近なものと戦っているバイタリティに感動します。

 しかし、だからこそアンネは主観的であり、周りを見ているのですが、結論が内を向いているのではないでしょうか。

 

 最後の文にはアンネの成長が見られました。お姉ちゃんは一般的な意見文みたいで、感情的な最初のほうが面白かったと言っていましたが、シュガさんはこの一般化を経て、文章がきっと研ぎ澄まされていく気がすると言っていました。

 

シュガさん「わたしはやっぱり人物描写はすごく良かったと思うの。それだけにもっと長く生きていれば絶対に面白い作品を作ってたと思う」

 

 読み終わった時には、どうしようもなく心が落ち込んでしまいます。何の前触れもなくアンネの日記は唐突に終わりあとがきが始まるのです。

 

 それでもこの作品は唯一無二の面白さがあることは間違いないと私は思います。

 

 

増補新訂版 アンネの日記 (文春文庫)

増補新訂版 アンネの日記 (文春文庫)