しま子の読書会ブログ

読書会をするブログです。たまに私が見た本や映画の紹介もしたいです。

第十五回 「雪の断章」 佐々木 丸美 著 (創元推理文庫)

今回の参加者:私、お姉ちゃん、シュガさん

 

「同じ作者でミステリーだと思ったらドラマだった読後感と、ドラマだと思ったらミステリーだった読後感どっちがいい?」

 

「どっちでも~」サンタロウデモラエタミスドノフレンチクルーラーパクー

 

「……どっちがいいか聞いてるんだけど(^-^)」

 

「ミステリーだと思ったらドラマの方が読みたいです!」

 

 そんなお姉ちゃんの問いかけ(という名のパワーハラスメントから今回の課題図書が決まりました。

 

 お姉ちゃんが課題図書にあげたのが佐々木丸美さんの「雪の断章」。(ちなみにドラマだと思ったらミステリーの方も佐々木丸美さんの「崖の館」らしいです)

 

 パワハラまがいのおススメで読まされた本ですが、これが本当に面白い!

 下校中の電車で読みはじめて、家に帰って、やらなくてはいけないことがあったのですが、続きが気になってあと十分……と読み始めたら止まらない……。

 

「読み終わってしまった……」

 

 時計を見ると午前四時をさしていてプチパニック状態でした(*^-^*)

 

 この面白さを共有したい!

 

 ウキウキ気分で読書会に向かった私を待っていたのは

 

シュガさん「今回の物語は腹が立ちましたね! 全然おもしろくない!」

 

 この人と分かりあえる日はいつ来るのでしょうか……。

 

 ※最後の方ネタバレがあります。徹夜本と呼ばれるほどのミステリーらしいので、読む予定がある人はぜひ読んでから見てください。

 

 

 

【あらすじ】

 

 舞台は北海道。孤児である飛鳥の半生が描かれています。

 

 孤児院時代、迷子になった五歳の飛鳥は親切な青年に助けてもらいます。

 

 その2年後、孤児院から出て引き取られたのは本岡家。その本岡家で飛鳥はひどい虐めを受けていました。それに耐えかねて逃げ出した飛鳥。

 

 そんなとき再び偶然出会い、手をさし伸べ、そして手元に引き取ったのが、五歳の頃に出会った青年・滝杷祐也でした。飛鳥は祐也や周囲の人々との助けを借りて成長していきます。

 

シュガさん「ストップ! むりむりむりむり!」

 

姉・私「!?」

 

シュガさん「あまりにもご都合主義じゃない? こういうの苦手なんだよね。」

 

 たしかにそうなのです。辛い現実から抜け出して、出会った男がバリバリのエリートで女の子を一人養えるほどの人物。そして良心だけで自分の養子に入れてしまいます。

 

 ただ確かに不自然に感じるストーリーですが、私は登場人物の細やかな描写が物語を読ませる力になっているのだと感じます。

 

 

 あらすじに戻ります。その後、本人の努力もあり進学校へ入った飛鳥。そこにあらわれたのは、本岡家の同い年の娘、本岡奈津子でした。さらに祐也の住んでいるアパートにも奈津子の姉、本岡聖子が引っ越してきて、飛鳥は本岡家との切っても切れない関係を感じます。

 

 

※ここから大きなネタバレです!

 

 

 

 

 

 飛鳥がそんな感情に鬱々としている時に事件が起きます。そのアパートで本岡聖子が殺されるのです。そして飛鳥はその殺人犯の正体を一人だけ知ってしまうのです。

 

 ここからがミステリーだと思ったらドラマの展開なのでした。

 

 前述した通り人々の細やかな描写がこの小説の魅力です。

 

 主人公の飛鳥は自分を「曲げにくい」人間で、そこが強みであると同時に、弱点でもあります。苦しくても自分の中で解決を図ってしまいがちで、相談することが苦手です。相手の感情を自分で決めてしまい、ますます内に閉じこもってしまいます。

 

 そんな彼女の一人称で物語は進んでいくのですが、読んでいる側としては彼女の危うさにハラハラしてしまいます。冒頭での本岡家との確執、殺人犯の正体を知ってしまったときの苦悩。その姿は痛々しく、目が放せません。

  

 飛鳥の真っ直ぐすぎる性格も相まって、彼女と少しでも意見の違う人間は全員が悪人のようにかかれています。

 

 

シュガさん「飛鳥から見て自分に善意を向けない人々は全てが極端な悪意を持つ人間に描かれているところも私が苦手なところかもしれない」

 

 

 事件を探る西村刑事というキャラクターがいるのですが、彼も事件解決のために頑張っている。しかし、飛鳥は一度調査の段階で無神経に疑われたことで西村刑事の存在そのものが悪意に感じられる。

 

 

「でも、こういう風に悪意を敏感に感じる精神的な傷が飛鳥にはあったんじゃないかな」

 

 

 それほど本岡家で受けた傷が大きく、深く暗いものだったということです。

 

 この傷は本岡聖子を殺した犯人、近端史郎にも共通しています。

 

 近端史郎は滝杷祐也の親友であり、一人暮らしの祐也の家を好んで入り浸っていました。だから飛鳥が引き取られた頃から一緒に過ごしてきた男です。

 

 殺人と別のストーリーラインとして飛鳥の恋心が核になります。飛鳥は育ての親の祐也に恋心を抱きます。しかし自分を育ててくれた人間をそういう目でみていいものか悩み続けます。そんな時に史郎にプロポーズされ、そこで悩んだあげく出した答えが史郎との結婚……。

 

 史郎はプロポーズした理由をこう述べています。

 

「荒れすさんでいた俺の気持ちを静めてくれたのはおまえ(飛鳥)だった。本岡家にゆがめられてしまった自分だけだと自分だけで決めて深刻そうにしているのが可愛らしかった。

俺はおまえを愛した。どこのどんな男にも渡さないと決めていた。」

 

 

 しかし最後は本当の自分の気持ちに正直になり祐也と結ばれます。

 

 一人だけ真実を知っている飛鳥は事実を隠し続けてハッピーエンド……

 

 というわけにもいきません。

 

 西村刑事が彼女を追い込みます。

 

 西村刑事に反感を抱いていた飛鳥は一度「自分は犯人を知っている」と挑発的に匂わせてしまいました。その言質を盾にせまる西村刑事、そして殺人に関しては真実を話してほしい祐也。しかし飛鳥は真実を話そうとしません。そして西村刑事にこう言います。

 

「頭から私を犯人扱いにして私の悲しみなど少しも思いやってくれなかった。水さしの件(※飛鳥が時間差で思い出した供述)を持ち出したのは容疑をそらすためのデッチ上げだと言いました。その時にもうこの人には何も言うまいと決めたのです。」

 

「私にとっては単なる口論も殺人も同じです。私を侮る心の動きに変りはないからです。私は私の尺度をもって判断します」

 

「単なる口論も殺人も同じと言い切るすごさですよね」

 

シュガさん「こういうとこがダメ。「私を侮る心の動き」と「殺人」の天秤は釣り合うわけ? ないない」

 

「極端な例で言うといじめた側は忘れても、いじめられた側は忘れない論理かな。法律では裁けない心の痛みを守ろうとしてるのよね」

 

 このシーンでは飛鳥は頑なに犯人を言わず、史郎さんの助け舟もあって切り抜ける事ができます。しかし飛鳥が「犯人を知っている」ことを知った史郎さんは遺書を残し自殺してしまいます。

 

 その遺書にはこう書かれていました。

 

「殺人とはいったい何か。(中略)人間を愚弄し心をがんじがらめにし希望を取り上げてしまう行為を何故罪としないのか? 方法が異なるだけで同じ殺人行為ではないのか。」

 

 心の痛みの重さ。それは法律によって罪になるものと同等に、罰を受けるべきものではないか。最後の何ページかは心を痛めた飛鳥と史郎がそう叫び続けます。

 

 

シュガさん「それでもよ。納得できん。殺すことはなかったんじゃないか」

 

 

「理不尽への対抗手段って泣き寝入りくらいしかなくないですか? そして別の場所に自分の居場所を持って心の平穏を保つしかないと思うんです。飛鳥も史郎も自分の居場所で生きようとしている所に本岡家が忍び込んできた。そういう意味ではすごいしっかりした殺人動機かなと私は思います」

 

 

シュガさん「それでも殺人は……」

 

「う……」

 

シュガさん「それに自殺の意図も分からんな」

 

「……(姉チラッ

 

「ま、まあ感情をコントロールできなかった史郎は責められるべきだよね。ただその史郎を正当に責める事ができるのって飛鳥だけなんじゃないかな? 史郎への殺人の非難って、一般論でしかない。もちろん法律の上では殺人は罪なんだけど、ただ史郎の心の痛みをくんで殺人を非難できるのは飛鳥だけじゃないかな。その飛鳥に理解され、その罪を飛鳥に抱え込ませることになってしまうと感じた史郎は、自殺を選んだんじゃないかな」

 

 史郎さんの遺書の冒頭はこう始まります。

 

「チビ、ありがとう。

 おまえの姿勢は一瞬のうちに法も道徳も及ばなかった俺の罪を裁いてくれた。

 おまえに捕われて処断されるのなら悔いはない、おまえが主張したように、自分だけの力で成し遂げたものを大事にしてその勝利を信じたままで死にたいと思う。」

 

 飛鳥も史郎も自分の心情に従って善悪を判断しています。それは独善的で子供っぽくうつるかもしれません。

 しかしこの飛鳥を理解できる人は、理解されがたい痛みがこの世にあるのを知っている人ではないでしょうか。

 

シュガさん「それでも色々とやりすぎ!<(`^´)>」

 

私、姉「(´・ω・`)」

 

 けど私は面白い小説でした!おススメです!

 

 

雪の断章 (創元推理文庫)

雪の断章 (創元推理文庫)