第十二回 「丘の屋敷」 シャーリイ・ジャクスン 著 渡辺 庸子 訳 (創元推理文庫)
今回の参加者 私、お姉ちゃん、シュガさん
私はいわゆるホラー物がダメです。
なにがいやなのでしょうか、と自分自身に問いなおしてみました。
・暗さを巧みに利用した奇襲攻撃。
・不気味な無生物が動くこと。夢の国の着ぐるみなんかも怖い。
・死の恐怖。痛さ。グロさ。 etc...
とにかくホラーはいやなのです。なぜ自分からそんな恐怖に飛び込んでいくのか。ホラーがなくても幸せに生きていくことができるじゃないですか。
姉「うん。今回の課題図書はホラーものにしよう」
私「話聞いてました?」
姉「小説だからまた感じ方ちがうっしょ」
っしょ。じゃないでっしょ。なんですかその軽い感じ。
そんなわけで課題図書は「丘の屋敷」になったわけです。
戦々恐々と怯えながら読んだのですが……
うーん。あまり怖くない……ような……?
なんて読書会で漏らすと
シュガさん「想像力があまりないのでは?」
姉「常に作品の根底に流れる不気味な空気が分からんのかね?」
な、なにをー!(怒)
※物語のネタバレがあるので注意してください。
主人公はエレーナ・ヴァンスさん。
彼女は幼少期にポルターガイスト現象に出会ったのがきっかけで、モンタギュー博士の調査に招かれます。
その調査とは幽霊屋敷である〈丘の屋敷〉の調査です。
そこではエレーナ以外にも招かれた客がいました。透視能力を持つセオドラ。そして〈丘の屋敷〉の持ち主の甥ルーク。
迷宮のように入り組んだ造りの〈丘の屋敷〉では、まるで建物自身が意志を持つかのように四人の眼前に怪異が繰り広げられます。
子供部屋の異様な冷気、血塗れの床、壁に書かれる「エレーナ、うちに、かえりたい」の文字。
そして屋敷の図書館で明かされる〈丘の屋敷〉を設計した人物の異常性が明かされることで、〈丘の屋敷〉の怪異も一層強まり……。
うーん。あんまり怖くない。
その原因は〈丘の屋敷〉に行くエレーナ・エヴァンスさんって人が〈丘の屋敷〉以上にひっかかる存在だったからです。
32歳、独身。十一年も介護していた母親が亡くなり、妹夫婦と遺産でもめています。
だからこそ調査に呼ばれた時には、厳しい現実からの脱出もあいまって幸せな旅路を予感します。
〈丘の屋敷〉はどの人間が一目見ただけで、不気味さを感じます。そこに泊まるなんてもってのほかのはずです。
しかしエレーナは〈丘の屋敷〉で一晩明かした時に
「なんて素敵なんだろう」
「昨夜はろくに眠れなかったし、ここに来てから嘘をついたり、うかつな真似をして笑われたりもしたのに、なぜか空気はワインのようにおいしく感じられる」
と感じます。
他の人間が丘の屋敷に対して恐怖を募らせていくのと相反し、エレーナだけがこの環境に愛着を持っていくのです。
そのエレーナの〈丘の屋敷〉への執着に危険性を感じたモンタギュー博士たちは、エレーナが〈丘の屋敷〉の意志に取り込まれる前に、なんとか〈丘の屋敷〉から切り離そうとします。
しかしエレーナは自分に帰る場所はないため、〈丘の屋敷〉に執着していることを隠しながら正気であることをアピールして、なんとか居残ろうとします。(それでもその異常性は漏れ出てくるのですが……)
そして最後には無理矢理〈丘の屋敷〉から追い出されるのですが、〈丘の屋敷〉にずっといたいという気持ちから屋敷の私有地の中で乗っていた車を木にぶつけ死んでしまいます。
うーん。丘の屋敷ではなくこのエレーナが気になる!
正直に言います。私はこのエレーナが嫌いです。妄想癖で話がかみ合わず、この人と同じ空間で過ごすのはかなりきついです。
シュガさん「けどエレーナって何も悪い事やってなくない?」
私「悪いことはやってないですけど……」
シュガさん「エレーナは確かに妄想癖で自虐的な所があるけど、人に迷惑かけてないよね。それに青春時代を犠牲にして母親の介護をして、妹は結婚して、母が死んだら遺産問題。これほど同情されるべきキャラクターであるはずなのに、それほどあなたに嫌悪感を与えるってすごいよね」
そうなのです。理性的に考えれば同情されるべきキャラクター。にもかかわらず小説内でも孤立し、私からも嫌われる存在。
シュガさん「この作品って孤立してしまう人の描写が上手いなって感じたよ」
実は屋敷に集まった人たちに悪い人はいません。それどころか屋敷に執着して危険だと思われるエレーナに対しての対応は慈愛に満ちたものでした。
シュガさん「けど善意のおしつけって、ときにその対象を弱者にして孤立をうませるからね」
自己愛が強く、屋敷への執着が人一倍強かったエレーナ。だからこそ周りの優しさはエレーナの孤立を深めて行ったのです。
そして孤立したエレーナは〈丘の屋敷〉とどんどんシンクロしていきます。
お姉ちゃんは〈丘の屋敷〉が「孤独」な人間を取り込む魔力があるのではないか、と考えました。あくまでもエレーナが屋敷に執着していくのは〈丘の屋敷〉の意志ではないかというのです。
この〈丘の屋敷〉の怖さは現象があるけれども、原因が分からない怖さだと言います。
お姉ちゃん「エレーナはやっぱり〈丘の屋敷〉に取り込まれたんだと思う。人間が持っている孤独感に働きかけてくるような屋敷の複雑な構造や現象がエレーナを死に追いやったのだから、やっぱり〈丘の屋敷〉は怖いんだよ」
死ぬ直前のエレーナの独白です。
大木に激突する直前の、まるで時間がとまったような、終わりのない一瞬の中で、彼女は最後にはっきり思った―なぜ、わたしはこんなことをしているの? なぜ、わたしはこんなことをしているの? なぜ、誰も止めてくれないの?
お姉ちゃんいわく、妄想癖で自己愛に満ちていて、かわいそうなエレーナ。(と私は思えなかったです)
あくまでも屋敷の作為があり、祟りのようなものである。それはやはり現象の恐怖であるのです。
小説の一行目にこの恐怖が凝縮されています。
この世のいかなる生き物も、現実世界の厳しさの中で、つねに正気を保ち続けていくというのは難しい。
私「って言われても怖くなかったなぁ」
お姉ちゃん「想像力貧困」
シュガさん「共感力ゼロ」
私「(´・ω・`)」
納得いきませんが本を読んでそういう力を鍛えて行きたいと思います。(怒)