しま子の読書会ブログ

読書会をするブログです。たまに私が見た本や映画の紹介もしたいです。

第六回 「ユービック」 フィリップ・K・ディック 著 朝倉久志 訳 (ハヤカワ文庫)

 今回の参加者:私、お姉ちゃん、シュガさん

 

 大変遅くなりましたが、あけましておめでとうございます!

 今年もかなりのスローペースですが、書いていければと思います。

 今年の目標:月1回更新!(すでに一月すべりこみですが・・・)

 

 

 今回はお姉ちゃんが課題図書の担当でフィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を読みたいと言っていました。

 早速二人で書店に行くと「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の本の帯が目を惹くものでした。

 

『PKD(フィリップ・K・ディック)総選挙 第2位』

 

私「第2位だって」

 

お姉ちゃん「うん」

 

私「第1位読もうよ」

 

お姉ちゃん「は? 私これ読みたいんだけど」

 

私「それは違うよ! AKBでも前田敦子押さえないで大島優子から入っていくのはおかしいでしょ!」

 

お姉ちゃん「あなたは何を言ってるんだ」

 

私「1位が読みたい! 1位が読みたい! 読者が選んだ推しメン(作品)栄光のセンター堂々第1位が読みたい!」

 

お姉ちゃん「(;゚Д゚)」

 

 というわけで私の激しいゴネによりフィリップ・K・ディックの「ユービック」に決まりました。(なんか読者が選んだ1位ってだけで読みたくなりますよね!)

 

 私は早速ページを開いて読むと、もう捲る手が止まらない! さすが1位! 面白くて面白くてたまりませんでした! 二日ほどで読み終わり、十二月の末にはもう読書会をしたくてしたくてたまりませんでした。

 

私「次の読書会は!?」

 

お姉ちゃん・シュガさん「社会人は年末年始は死ぬほど忙しいのよ(白目)」

 

私「(´・ω・`)」

 

 そしてきたる1月28日読書会の当日。

 

私「すっかりユービックの内容を忘れてしまいました」

 

お姉ちゃん・シュガさん「(´・ω・`)」

 

 

注意:物語の要素で重要なネタバレも議論に入ってくるので、読もうと思っている人は注意してください。

 

 

 

 

 

 舞台は1992年のニューヨークです。相手の心を読んだり未来を見たりする「予知能力者」が住む世界。そんな超能力者から、人々のプライバシーを保護するためにグレン・ランシターは会社を立ち上げました。そのランシター社長の従業員であり、かつ「予知能力者」に対抗する力を持った主人公ジョー・チップら「『反』予知能力者」たちが「予知能力者」を捕まえるためルナ(月)に向かいます。

 

 しかしそのルナで爆弾テロが起こり同行していた社長のランシターは死んでしまいます。

 

 さらにこの事件からおかしなことが起こり始めます。地球に戻ると、あらゆるものが退化していくのです。たとえばたばこはひからび、食べ物は腐る。今の時代にあるはずのないテープレコーダがあったり、エレベーターは手動の古いものへ、陸上の輸送機関は電車から蒸気機関車へ。まるで時間が退行しているのです。

 

 時間の退行は一向に終わらず、時間の退行はその世界の人間にも同様に訪れ、主人公ジョーや仲間にも死の危険が迫ります。

 

 しかしそんな世界に死んだはずのランシター社長があらゆる手段で彼らにメッセージを送ってくるのです。そのメッセージによってジョーたちはある事実を知ります。

 

 実はあのテロで殺されたのはジョーたちであり、生き残っていたのはランシターだったのです。

 

 この小説の世界では死んだ人間を冷凍保存すると「半生命状態」になります。「半生命状態」では身体は死んでいるのですが、意識は生きている時と同じようにはっきりし、生きている人とコンタクトすることもできるのです。ランシターはテロのあと、従業員たちを冷凍保存し、チューリッヒにある安息所でずっと彼らに呼びかけていたのです。

 

 さらに時間退行をして彼らを苦しめていたのは、そのチューリッヒにある安息所に昔から住む「半生命状態」のジョリーという少年の仕業だったことが分かります。なんとか彼に対抗しようとしますが、上手くいかず主人公以外の仲間たちは次々と死んでいきます。

 

 そして主人公のジョーも死に直面します。しかし昔から「半生命状態」であったランシターの妻、エラが現れます。エラも昔からチューリッヒの安息所に住み、少年ジョリーへの対抗策を考えていました。そこでエラが生み出したのが「ユービック」というスプレー型のアイテムです。「ユービック」には時間退行止める力があり、それを手に入れた主人公は何とか危機を逃れることができました。

 

 その事実を知った現実の世界のランシター社長はほっとします。しかしランシター社長のまわりでも奇妙な出来事が起こります。自分が送ったのと同じようなメッセージがジョーから届き、もしやこの世界でも時間退行が・・・? そんな不思議な描写で物語は幕を閉じます。

 

 

 この本の解説の中でフィリップ・K・ディックの台詞が引用されています。

 

 

「われわれは『ユービック』の登場人物のように、半生命状態にあります。われわれは死んでも生きておらず、解凍される日を待ちながら、冷凍睡眠に入っています。(中略)『ユービック』の中で物体のたどる逆行は、完全性を目ざすベクトルかもしれないのです。……この本体論、この存在の領域の中で、われわれ自身のように、夢の中で眠りながら、目覚めよと告げる声が聞こえるのを待っています。彼らとそしてわれわれが春の訪れを待っているというのは、たんなる隠喩ではありません。春は暖かさの復帰を、エントロピーの過程の廃棄を意味します。……春は生命を蘇らせます――そして、人類と言う種でもそうですが、新しい生命は、場合によっては完全な変容(メタモルフォージス)なのです。」

 

 私たちの読書会は「われわれは『ユービック』の登場人物のように、半生命状態にあります」とはどういうことか。というところから始まりました。

 

 この物語は現実だと思っていたランシター社長のまわりに時間退行のような現象が始まって終わります。その時私たちもランシター社長と同様に「え、こっちが現実じゃなかったの」という背筋が冷える感覚におそわれます。

 

 これは「現実世界」が「半生命状態」の人が住む世界と同じだということを暗示した描写だと考えました。

 

 では私たちの世界が「半生命状態」とはどういうことなのでしょうか。

 

 

 

 お姉ちゃんはこう考えました。

 

 エントロピーの増大」という言葉がありますが、これは「無駄が増える」ということだと言い換える事ができます。電車であれば、それは燃費が悪いことであり、人間に置き換えれば老化することになります。

 

 つまり生きている私たちは死というものを迎えることで一番無駄が増え切った状態、動物としてのエントロピーが最大になります。

 

 登場人物たちは〈時間が退行している〉という認識ですが、お姉ちゃんはジョリーが行ったのはエントロピーが増大する世界への改編〉だと考えました。

 

 その死の過程(エントロピーの増大)から私たちは逃れることはできません。

 

 今回の小説での主人公ジョーは「半生命状態」になりながらも死を常に意識しています。

 

 そのなかでランシター社長からのコンタクトを受けながら、ジョーは「ユービック」を手に入れます。

 

 小説では「ユービック」はユービテックという言葉を語源とし、ユービテックは「神の遍在」という意味があると言われています。

 

 「神の遍在」である「ユービック」について各章の前に物語とは関係のない一節が書かれています。その一節はユービックが俗物的なものとしての象徴として書かれています。

 

 例えば第一章では

 

 みなさん、在庫一掃セールの時期となりました。当社では、無音、電動のユービック全車を、こんなに大幅に値引きです。

 

 と車に。

 

 第二章では

 

 一番いいビールの注文のしかたは、ユービックとさけぶことです。

 

 とビールに。そのあともコーヒーとしてのユービック、サラダドレッシングとしてのユービック。

 

 つまり私たちが今現在使っているこのパソコンも人間が作りだしたものではなく「ユービック」によって作られたものなのです。私たちが考えて作ったと思ったものは全て、自分の意志ではなく「神」の存在によって作られたものなのです。

 

 最後の章でそのユービックの一節は「神」としての役割を感じる部分が多くなります。

 

 わたしはユービックだ。この宇宙の始まる前からわたしは在った。わたしは多くの太陽を創った。多くの世界を創った。生き物とそれが住む場所を創った。わたしは彼らをこちらへ動かし、あちらへ置く。彼らはわたしのいうままに動き、わたしの命ずることをする。わたしは〈ことば〉であり、わたしの名は決して口にされず、だれも知らない。わたしはユービックと呼ばれるが、それはわたしの名ではない。わたしは在る。わたしはつねに在りつづける。

 

 主人公のジョーが最後に手に入れた自分の死への退行から逃れるユービックというスプレー缶は「エントロピーの過程」を廃棄する品物でした。

 

 さきほどのフィリップ・K・ディックの言葉の中にこうあります。

 

 

エントロピーの過程の廃棄を意味します。……春は生命を蘇らせます――そして、人類と言う種でもそうですが、新しい生命は、場合によっては完全な変容(メタモルフォージス)なのです。

 

 

 ユービックにより、エントロピーの過程の廃棄を達成したジョーは、もはや人間ではない。ある種の新しい生命、メタモルフォージスになります。

 

 「神の遍在」を正しく受け取れば、私たちはジョーのようにエントロピーの過程を廃棄し、私たちは新たな生命体になれるわけです。

 

 そんなジョーという新たな生命体が物語の最後で私たちが現実だと思っていた所にいるランシター社長へ啓示を行います。

 

 その時にシュガさんが言いました。

 

シュガさん「これってキリスト教の話と一緒じゃない?」

 

 宗教に疎い私は(; ・`д・´)?って感じでしたが、お姉ちゃんは(゚д゚)!って感じでした。

 

 キリストという存在はもともと人間だったそうです。だからみんなと同じように死へ向かいます。しかし復活という形でエントロピーの過程を廃棄し、新たな生命体として生まれ変わったそうです。

 

 それがジョーの立ち位置とそっくりなのだそうです。

 

 ジョーが神の啓示をしっかりと受け取ってエントロピーの過程の廃棄を達成します。

 

 私たち現実世界の人間も本来はエントロピーの過程の廃棄が可能なのです。

 

 しかし私たちはそのユービッテック(神の遍在)を正しく受け取れず、いまだにくすぶっている状態。つまり「半生命状態」なのです。

 

 キリスト教(聖書?)の話だと考えると、色々と二人は合点がいったらしいのです。(ジョーがキリストだ! グレンがエフォバだ! 予知能力者は使徒の数だ! と二人で盛り上がっていましたが私はさっぱりでした・・・)

 

 ただ私にもフィリップ・K・ディック「われわれは『ユービック』の登場人物のように、半生命状態にあります」の真意が見えてきたような気がしました。

 

 宗教観のあまりない私にとっては、なかなか考えずらいことですが私たちの今の状態、ただ死へと向かうことはまだ「神の遍在」をしっかりと理解していないということなのです。

 

 私たちが「神の遍在」をしっかりと受け取り真の「ユービック」を創ることができた時、私たちは初めてエントロピーの過程を廃棄し生命を超越した何かになれるのではないでしょうか。

 

だから私たちはまだ「半生命状態」なのです。

 

 

 

 

 

(なんかエントロピーて言葉が恰好良くて何回も使ってしまった感じをばれるのはいやだなぁ・・・)

 

 

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)