読書記録「こころと人生」著 河合隼雄 (創元こころ文庫)
とてもお久しぶりです。しま子です。
読書会を記録するために始めたブログですが、色々あって読書会が滞っております。
ぶっちゃけシュガさんが初「おめでた」でした。
もう少し落ち着いてから、また読書会を始めたいな、と思っています。
私もせっかく夏休みに入ったので、読んだ本や映画の記録でもしていこうかなと思っています。
今日は「こころと人生」著:河合隼雄(創元こころ文庫)についてです。
箸が転んでも可笑しいお年頃。なんて言われたりします。箸が転んで何がおかしいの? と言われると説明できません。けど面白いんです。
それは本当にそうで、家に帰ると何で面白かったんだろう、ってことがその場では息が出来ないほど笑えることがたくさんあります。
これは楽しい気持ちが説明できないことですが(ある意味クレイジーですが)そんなに人には迷惑をかけないと思うし、本人も幸せだと思います。外に出てくるのは笑いです。
ただ辛くて苦しい気持ちの時に説明ができない、なんてこともあると思います。その時に外に出てくるものは何なのでしょうか。
この本は心理学者の河合隼雄さんが行ったカウンセリング講座の講演集です。
題名通り、人生の中にある大きな時期「子ども時代」「青年期」「中年期」「老年期」。それと「こころ」の関係を題材としたお話です。
その中でもカウンセリングの話が中心なので、「こころ」がどうしようもない時の話が多く語られています。「こころ」がどうしようもない時はなかなか理由を説明ないわけで、上手くその感情が表に出てきません。
その時に理由も説明できずに固まって動けない人たちに対して、イライラしたり文句を言ってしまいがちだと思います。私なんかは弟がいたのでよくわかります。「なんで言われたことをしないで動かないの!」って怒ったりイライラしたことはたくさんありました。
それに怒ること自体は悪いことではないと思います。ただそれを頭ごなしに悪いことだと決めつけてしまう、変なのはこいつだと決めつけてしまう。そう決めてしまうと私たちも楽です。
ただその理由が説明できない「こころ」の動きが重要なのかもしれないのだと考えさせられました。
例えば河合さんは「学校に行けない子どもの話」をします。
親にとってはものすごい憂うつです。よその子は、どの子もみんな朝になれば学校へ行くのに、自分の子どもだけが行かずにグズグズしている。「行きなさい」と言ってもなかなか行かないし、起きてこない子もいます。
親の立場に立ってしまうと、やはり子どもが学校に行かないとなると、他と比較して「うちの子が変だ」という事になってしまいます。それに理由を説明してくれない。「学校の先生が嫌だ!」とか「あの友達が嫌だ!」なんて言ってくれたら何か手立てがあるかもしれないのに、何も言ってくれない。イライラしてしまうと思います。
そういう親御さんの中には、こういうことを言う人もありますね。「私たちはそんなに悪いことをしたわけじゃない」と。
そんな親御さんの嘆きを聞いて河合さんはこう思います。
「お父さんお母さんはそう言っておられるけれど、世の中はうまいことできていますな」と本当は言いたくなります。(中略)これからどういうことがその家に起こるために。今こういうことになっているのかということがだいたい想像できるわけです。そうして「ああ、子どもさんが、頑張っているな」と僕らは思うわけです(笑)。
なんで河合さんはそう思うのか。それは長いカウンセリングの経験からその「こころ」の動きに意味があることが分かっているからです。実際に子どもが不登校になった時にカウンセリングを受けながら色々考えていくと、子どもではなく大人自身、要するに夫婦の関係や家族の間柄の中でなんらかの不和が顕在化していきます。そうするとその子どもの不登校が何らかの意味を帯びてくるのです。
実際、本人がそんなことを思ってるかどうかはわかりませんけれど。そんなふうに考えると、無茶苦茶をやっているように見える子どもの行動が、みんなすごく深い意味をもってくるわけです。実は、われわれがこういう仕事をしていますのも、普通の見方からすると「あれは変な子や」とか、「問題のある子や」「いやらしい子や」と言われている子のやっていることが、親も、先生も、われわれも一生懸命に考えたら、もう本当に素晴らしいとしかいいようがないからです。
もちろんこのような「こころ」の不和というのは子どもだけに現れるものじゃなく「青年期」「中年期」「老年期」どの時にもあらわれます。
それは先ほどの子どもの例のような不和だったり、中年期に迎える「自分は何のために生きているのか」という答えの出ない深いところの悩みだとか、周りにいる嫌だと思う人間のために困らせられることなどたくさんあります。
その時に河合さんは「ひっくり返してものを見る」ことが大事だと言います。
たとえば、親類のひじょうにいやな人が、お金を借りにくるとかね。(中略)もう、いやでしょうがないから「おまえの身内のあれは、どうしようもないなぁ」とか言いながら、その人が来るために、とうとう夫婦の会話ができてきたとかね。そんなのを横から見ていたら、二人で「変な親類をもった」と言って嘆いておられるけれど、そのおかげで、だんだんこの二人は老年に入っていく準備をしておられるんだなあと思うときもあります。(中略)世の中の非常におもしろいとこです。ものすごくマイナスで、いやなように見える人も、なかなか世のため、人のために頑張っているんです。(笑)
マイナスも出来事もまわりまわって自分の人生のバランスをとる役割を取っている。そう考えれば少し新しい視点を見たり、気持ちが楽になれるかもしれません。
ただ自分が追い込まれている時は、そんな余裕を持って考えることができないと思います。だからこそ、その突破口として人の話を聴いて寄り添うプロ、カウンセラー重要な役割を担っているのかなぁと思いました。
講演会の話だけあってとても読みやすく、面白い話がたくさんあります。河合さん自身たくさんの人間と対面し、話を聴いてるから深みもあります。まさにこちらが言いたいことを聴いてもらっているような、楽しい読書体験でした。