第二十二回 「重力と恩寵」 シモーヌ・ヴェイユ:著 田辺 保:訳(ちくま学芸文庫)
今回の参加者:私、姉、シュガさん
シュガさん「今121Pなのだけどまったく内容が頭に入ってこない」
こんなLineがシュガさんから送られてきたのが読書会前日、深夜十一時でした。
何と残りページ数231P。
100%読了不可能です。なぜなら私はこの一ヶ月、暇な時間を全てこの本に当てていました。それほどの重量のある本だったのです。
しょうがないので私は徹夜でシュガさんに解説をするためのノートをせっせこまとめていきました。
そして当日、昼12時……
シュガさん「読み終わったぞー」
う……うそでしょ。私の徹夜は……一ヶ月は……。
本書は「カイエ」と呼ばれるシモーヌ・ヴェイユの思想書を、深く関わりのあったティボンさんが体系的にまとめたものです。
シュガさん「わりと当たり前のことが当たり前にかいてあったなぁという感じだったな」
私「どういうところがですか?」
シュガさん「例えば悪の考え方とか。自分では善い行いと思っていても、気付かないうちに悪だったりするじゃない。そういうことを強く言っているのかなって」
悪は、自分がその中にいると、悪として感じられず、必然、あるいは義務とも思えてくるものだ。(121P)
シモーヌ・ヴェイユは善と悪という単純な考え方に飛びつくことを非難します。そもそも善と悪という対立構造を持ち出すこと、そのものが「悪」だというのです。
私「非常に分かりにくいです」
姉「そうだね。何かが起こった時に善と悪に分けちゃった方が簡単だから。けれどヴェイユから言わせるとそれはエゴイズム。自分自身が勝手に善と悪は判断できない。だから何かが起こったその事象を「注意深く見つめる」ことが大事だっていうよね」
何か自分で行動しようとするときに自分の意志ではどうしても善悪で判断してしまいます。そうではなくその事象を注意深く見つめることが大事なのです。
そうすることで自分の中に「無」を作ることができます。その「無」の中に神からの「恩寵」が降りてきて自然な行動を起こさせるのです。
姉「善と悪の矛盾をそのまま見つめる。矛盾をそのまま受け入れるんだから非常に苦痛なんだけど、それを行うことで神の恩寵が自然と自分の行為を規定するってことかな?」
精神がぶちあたるさまざまな矛盾、矛盾だけが現実のすがたであり、現実性の基準だ。(166P)
その現実をただ「注意深く見つめる」ことで生きていくのです。
姉「私はあまりに苦痛過ぎて、ヴェイユが言っていることは分かるけど全然実践できる気がしないわ」
シュガさん「私もだわ。人間の悲惨さは時間によって薄められるが、そのまま薄めずにあるがまま受け入れなさいとか……絶対無理だわ」
全編を通してシモーヌ・ヴェイユの厳しい言葉に精神をやられていきます。あまりにも清貧で自分を追い込む言葉に唸るばかりなのです。
ただ私は一つ良いな、と思ったことがあります。
私たちはどうしても経験から学んだことに重きを置いてしまいます。
例えば何か自分に不幸があって、それがある「カテゴリー」に属する人達のせいだったとしたら、その「カテゴリー」の人たちを憎み続けます。
周囲の人間も「そんなことがあったんだったらしょうがないよね」と言いながら、その「カテゴリー」の人たちを恨むことに寛容になっていきます。
しかしその恨みはきっと連鎖していくのです。
シモーヌ・ヴェイユは起こった事象をただ「注意深く見つめる」こと、また不幸をそのまま受け入れること、執着から離れることを繰り返しています。
それはきっと恨みの連鎖を断つ人間にできる唯一のことなのかもしれないと思ってしまうのです。
シュガさん「うーん、理想論だねぇ。やっぱ仕事とかしてると、上司とかが嫌なやつでさ。もうそんな悠長なこといってないでさっさと会社の体制を変えたいとかおもうよ。同僚とよく言い合ってるもん。革命しようって」
私「そんなシュガさんにシモーヌ・ヴェイユのありがたいお言葉をあげます!」
宗教ではなく、革命こそが、民衆のアヘンである。
シュガさん「うぐぐ。あらゆる角度から人の意志を剥いでいくね」
姉「宗教観のない日本では本当に実践は難しいよね」
私「でも、そんな中でも宗教に代わる人倫を見つけて行かなければどうにもならない気もします」
シモーヌ・ヴェイユは宗教的なものの中にこそ、人としての生きる道があると考えました。
しかし宗教に疎い私でも多くの箴言や納得できる言葉があって、非常に重かったのですが良い読書体験になりました。最後に一番印象に残った言葉で終わりにしたいと思います。
死を愛することができるために、生を深く愛さねばならない。
重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄 (ちくま学芸文庫)
- 作者: シモーヌヴェイユ,Simone Weil,田辺保
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1995/12/01
- メディア: 文庫
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