第二十回 「IQ」 ジョー・イデ 著 熊谷千寿 訳 (ハヤカワ文庫)
今回の参加者:私、姉、シュガさん
シュガさん「なんかこう、何も考えず楽しいの読みたいよね。読書会も『楽しかったー』で終わるような」
今回の課題図書を選んでいる私にシュガさんはそう言いました。
私「じゃあ最近話題のミステリー小説にします? こないだヤフ―ニュースで見たんですけど、声優の池澤春菜さんがおススメしてて気になってて」
シュガさん「ほうほう。どんな本なの?」
私「黒人の探偵が・・・」
姉、シュガさん「絶対はなすこといっぱいあるやつじゃん」
私「?」
というわけでジョー・イデさんの「IQ」になりました。
そして期待して読んでみたのですが・・・何かいまいちしっくりこないまま読み終わってしまいました。首を傾げながら読書会に向かうとシュガさんが一言、
シュガさん「いやー! 本当に面白い小説だった!」
この人との感性が合う読書はいつやってくるのでしょうか・・・。
主人公はアイゼイア・クィンターベイ(通称がIQ)でその名の通り知能が高い黒人の青年です。今は探偵として生計を立てていて、今回は大物ラッパーの暗殺未遂事件を解決へと導いていきます。
小説の文庫裏のあらすじには
新たなるシャーロック・ホームズの誕生と活躍を描く
と書かれている通り、細かい点を観察し、証拠を見つけ実際に足を動かし、事件を解決に導いていくのです。・・・ですが・・・
姉「なにがしっくりこなかったの?」
私「ストーリーの軸がラッパーの暗殺未遂なんだけど、一章ごとにアイゼイアの過去である〈探偵になるまでの軌跡〉が描かれているのが・・・」
今回の物語はこっちがメインと言っても良いのではないでしょうか。その暗殺未遂事件に挟まれてアイゼイアが探偵になるまでの過去が描かれています。
シュガさん「その過去が良いんじゃない。ギャング抗争とか貧困層の現実とか、黒人のコミュニティから誕生するホームズ。そのストーリーが面白かったよ」
アイゼイアと共にラッパーの暗殺事件に挑むドットソンとの過去や、なぜIQと呼ばれるほど知能の高い彼が現代で探偵という職を選ぶことになったのか。そんな重厚な過去と切っても切り離せないリアルな黒人コミュニティの描写。確かに興味深いのですが・・・
私「それでもメインの暗殺未遂事件が気になりすぎて、先にケリをつけてくれって思ってしまいました」
シュガさん「いやいや。メインのドットソンとのやり取りなんか過去をしっていないと楽しさ半減じゃん。ドットソンが傲慢で嫌な奴なやつというだけでなく、料理が上手くて行動力のあるところが見れる。アイゼイアも嫌な過去があるから相当嫌っているけど、料理下手で慎重な彼にとって捜査物のバディとしては相性が非常に良い。二人の薄い本が読みたいよ」
最後の方早口で何言ってるのか分からなかったのですが、確かにドットソンとの重い過去を知っているから、現代の口論や、やり取りが楽しんで読めるのかもしれません。
シュガさん「あとさ、今まで読んできた黒人の方を題材にしてきた小説ってネガティブなものが多かったよね。フォークナーとかも虐げられるものとして描いてたじゃん(
第四回「フォークナー短編集」 フォークナー 著 龍口直太朗 訳 (新潮文庫)
)。けど何だかこの小説は描き方がポジティブで黒人文化の楽しいところがたくさん見れて面白かった」
解説の所で「アジア系アメリカ人作家が、黒人社会の小説を書いたことに抵抗を覚える人はいなかったのだろうか?」という質問に対し、作者のジョー・イデさんの回答が引用されています。
「驚いたことに、アフリカン・アメリカンのコミュニティからは、まったくネガティブな反応はありませんでした。好意的に受け止められており、とてもうれしく思っています」
確かに自文化を題材とした小説に、アイゼイアやドットソンのような愉快なキャラクターが登場し活躍していたら嬉しいと感じられます。
姉「本当にこの二人のキャラクター造形はいいよね。水と油のような印象なんだけど、やり取りを見てると息ぴったりなとことか。アイゼイアなんかは、現代のホームズって呼ばれてるけどクヨクヨ人間らしいことで悩むとこも好感持てるしね。私もこの小説は面白くて好きだよ」
と、お二人は言うのですが、百歩譲ってアイゼイアはいいやつですが、ドットソンというキャラクターが私は好きになれなかったのも一つのマイナスポイントかもしれません。というか彼の過去を知らなければ良いバディものとして読めたのかもしれません!
だって傲慢で自分勝手で適当でアイゼイアを悪い道へいざなうし、悪の権化のような・・・
姉・シュガさん「でもほら、最後のシーンで・・・」
私「あんなんじゃチャラになりません!!!」
という風に最後のシーンで色々あるのですが! 私はドットソンを絶対に許しません!
そしてそんな二人の薄い本なんて絶対にいりません!!!